おはよう

挨拶 CEO

或る話

銭湯に行けてない。その理由といえば家路途中の駅近銭湯に行き尽してしまったこと、終わる時間が早いことに尽きるのだけれど、いつの間にやらぼくは銭湯記事を適度に書かなければいけないという強迫観念に縛られて記事を更新出来ない体になってしまっていた。そもそも何かを書くためにこんな大それた前置きをする必要なんてないのだ。ここには銭湯記事を楽しみにしてくださっている読者もいることとは思うが(そんなこともないと思う;二律背反)、適度な毒抜きのために、ぼくのブログがブログであるために、ブログたらしめるためにこの記事を皮切りに何かしらの更新を加えていこうと思う。

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いとこの話 

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ぼくには同い年のいとこがいる。

首都圏在住のぼくにはある程度のシティボーイである自負があり、いとこが住んでいるところは母方の実家:俗にいう田舎で、小さい頃は帰省の際によく遊んでいた。物心つく頃には次第に会わなくなっていて、彼は大学進学で都内に出てきたが、長い空白期間の気恥ずかしさもあってか、在学中〜卒業後もあまり会えていなかった。

そんな彼とは先日祖母の通夜で久しぶりに顔を合わせたのだが、東京から実家に戻っていて、仕事のこと、付き合っている彼女の実家の方に引っ越すとか引っ越さないとかそんな話をきいたり、お互い大人になったね的な話を、酒を飲みながら夜通しした。それでつい最近、とうとう引っ越したのだそうだ。

感慨深くなったので、彼との昔のエピソードのなかで思い出深くてふわっと匂い立った1つをお届けしたいとおもった。

 

だいたい毎年お盆ごろに帰省をしていたから季節は夏だった。近くにジャスコしかない田舎だから緑は多く、ぼくもここへ来るとカブトムシやクワガタ捕りなんかに行った記憶がある。

小学校の低学年くらいか。

この年も彼はカブトムシを飼っていた。やはりカブトムシはうちの方ではレアで、持っているだけで箔が付く、というかやっぱり幼心にはかっこよく見えるものだ。毎年のことではあったがぼくは羨望の眼差しで彼とそいつを見つめてばかりいた。

しかも、この(今季の)カブトムシがとてつもなくすごいのだ。すごいのである。圧倒的な凄みを持ってぼくに襲いかかってきたのである。

 

畳の部屋でぼくが横になっていると、彼はカブトムシを携え(生き物だからそれも語弊があるか、引き連れて)やってきた。

徐に手のひらの上にカブトムシ乗せて、彼が「ハッ!!!!」と叫ぶと、プイ〜〜ンとカブトムシが前方に飛んでいくのだ。床の間の前で畳の上に着地したそいつを彼は拾い上げてヨシヨシしている。

なにこれめちゃくちゃカックイー!!!!ー!

ペットや!完全に飼い慣らしている!虫を飼い慣らしている!!虫やで!いきなり人が休んでるところに現れるなり「ハッ!!!」って何だよ「ハッ!!!!」って!でもすごい。持っているだけでかっこいいカブトムシを自由自在に操れるなんて、こいつまじですごいと幼心に思った。感嘆と共に恐怖の感情すら心に流れ込んできたのを鮮明に覚えている。

ぼくは目を点にし更には釘付けになって彼と小さなそいつの妙技に酔いしれた。

「ハッ!!!」プイ〜ン

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!」プイン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!!!!!!!」プイ〜〜〜ン

 

終わったあとは必ず彼がヨシヨシしてやる。ぼくは代わり映えしないその一部始終を飽き足らずに見狂いながら、ある法則:声のボリュームに応じて飛距離も変わってるんじゃねーかということを推察する。

このことを彼に告げると「よく・・・気づいたね・・・・・」となんか得意気だ。殺意を殺意として認識したのはこの時が生まれて初めてだった。

 

それにしても凄い。何かテクニックはあるのかと訊けば、特にはなく、こいつにはそれが出来た、とカブトムシの才能を認めるようなことを平気で言っている。狂っとんか

単なる危険察知で飛ぶのかはたまた超常現象か、ハイと言われて飛ぶ事、撫でられるご褒美を欲したり、虫にも懐かせられるほどの知能があるならそれはそれですごいなと、いまなお思う。(当時はぐちゃぐちゃした思いを抱えながらただ彼の話を聞いて、見ていただけだった記憶がある。)

 

 

 

一連のショータイムでカブトムシにも疲れの色が見えた、気がしたが、幼い少年達にはそんなことは関係ない。娯楽は続く。

彼はカブトムシを優しく拾い上げ、息を大きく吸った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ハァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

プイ〜〜〜〜〜〜〜〜ン

 

 

カブトムシは、翔んだ。

 

まっすぐで迷いないその翼にぼくたちは息を呑むことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プイ〜〜〜〜〜〜〜〜ン

 

かつてないとんでもない飛距離だ。襖を越え、廊下を越えて、たまたま開きっぱなしだったベランダに続く出窓を越え、ベランダの柵を越え、カブトムシは、翔んだ。

 

彼の住む田舎町はとてつもない雪国で、基本的な家屋の構造として一階は倉庫、外から階段で上がって二階が住居になっている。

 

ぼくたちはカブトムシの勇敢な背中を追い、ベランダまで出たもののもう、もはや見守るしかない。

カブトムシはしばらく優雅に飛行を続けたが、滑空、着陸の姿勢に入る。そこへ我々の目に入ったのが、道の向こうからやってくる重機、トラクターだ。🚜

 

 

 

「うそだろ・・・」プイン

一夏を連れ添った相方を見つめる彼が力なく嘯く。小さなカブトムシは道の真ん中に降り立ったようだった。

 

 

音も立てずカブトムシは死んだ。

 

 

 

 

たった一瞬で。

 

 

確実に降り立ったであろう場所にタイヤの軌跡がある。ベベベベベと不快な音を立ててトラクターはぼくたちの前を通り過ぎていった。

 

 

 

どんな命も儚い。

 

 

 

 

 

 

 

この世から小さな才能がまたひとつ潰えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハッ てなんだよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後やりすぎだろ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛ぶなよ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぼくたちはあまりの呆気なさに笑うしかなかった。

ギャグ漫画のように、二人で無言でいそいそと畳の居間に戻り、二人でその場に倒れ、腹がよじれるくらい笑った。

 

ゲラッゲラ笑った。そこに存在したのはただひたすらに狂気だったと思う。過去にもそれ以降にもないくらいクソほど笑った。しばらく転げて笑っていた。泣いた。

潰れたカブトムシを全く見に行こうともせずぼくたちは笑い続け、そのまま眠りに落ちてしまった。

 

 

なんかよくわかんないけどたまにふと匂い立つ、ぼくといとこの忘れられない思い出だ。

 

 

 

いとこの話